土石流災害をふせぐ
土石流による災害をふせぐための施設や工事には、土石流が流れてきたときに、それを谷のとちゅうで受け止めて、ふもとまで行かないようにする砂防堰堤(さぼうえんてい)や、大水が出たときに、川岸や川底などが水の力でけずられないように、流れの勢いを弱め、下流に安全に流すための渓流保全工(けいりゅうほぜんこう)とよばれる工事もおこなわれます。
砂防堰堤(さぼうえんてい)
川の上流に行くと、川のとちゅうに流れを横切るようにして、コンクリートや石積みの仕切り壁(かべ)のようなものがつくられ、その上流側に土砂がたまって広い川原(かわら)ができているところがあります。山の斜面を流れ落ちる沢の途中にも、同じようなものがいくつもつくられていることがあります。これらが砂防堰堤です。
砂防堰堤は、人家のすぐそばにもありますが、人びとがあまり目にしない山奥にもたくさんつくられています。日本の山地はくずれやすい地質でできた、けわしい山が多く、そこから流れ出す川は、下流にたくさんの土砂を運んできます。この大量の土砂が土砂災害を引き起こすため、日本ではむかしから各地で砂防堰堤がつくられてきました(くわしくは「日本の砂防のあゆみ」を見てください)。
なお、砂防堰堤のことを砂防ダムということもあります。正式には砂防堰堤といいますが、少し前までは砂防ダムといっていたので、資料によっては砂防ダムとなっているものもあります。砂防堰堤も砂防ダムも同じものです。
土石流に対する砂防堰堤のはたらき
土石流が流れてきたときは、砂防堰堤のポケットに土砂をためこみ、土石流を止めます。ポケットが土砂で埋(う)まってしまった場合は、次の土石流に備えてたまった土砂を取りのぞき、ポケットをからにしておくことが求められます。
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A.透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
①川(渓流)ではいつも、水と一緒に土砂も流れています。 -
A.透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
②透過型砂防堰堤を設けた場合でも、普段は、水と土砂は同じように下流に流れていきます。
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A.透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
③大雨が降り土石流が発生したとき、大きな岩、流木などを含む土砂は、堰堤に引っかかり止まります。 -
A.透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
④堰堤にたまった岩、土砂や流木は、次の土石流に備えて取り除きます。
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B.不透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
①川(渓流)ではいつも、水と一緒に土砂も流れていきます。
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B.不透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
②不透過型砂防堰堤を設けると、堰堤の上流側に土砂が少しずつたまっていきます。土砂をためる量を確保するため、取り除くこともあります。 -
B.不透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
③大雨が降り土石流が発生したとき、堰堤は大きな岩や、流木などを含む土砂をため、下流への被害を防ぎます。 -
B.不透過型砂防堰堤が土石流をとらえる働き
④堰堤にたまった岩、土砂や流木は、次の土石流に備えて取り除きます。
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C.不透過型砂防堰堤が土砂の流れを調節する働き
①不透過型砂防堰堤は、土砂で一杯になっていても、効果がなくなるわけではありません。堰堤の上流側では、土砂がたまって川の勾配がゆるくなり、川幅も広がるため、水が流れるスピードも遅くなります。 -
C.不透過型砂防堰堤が土砂の流れを調節する働き
②大雨と一緒に大量の土砂が流れてくると、川の勾配がゆるい堰堤の上流側で水のスピードが遅くなり、既にたまっていた土砂の上にさらに大きく一部の土砂が積もってたまります。
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C.不透過型砂防堰堤が土砂の流れを調節する働き
③上にたまった土砂はその後、雨が降るたびに水の力で削られ、少しずつ下流に流れ出ていきます。(その後、大雨が降ると再び②のように大きく積もってたまります。)
オープンタイプの砂防堰堤
これまでに多くつくられてきた砂防堰堤は、コンクリートの堰(せき)で川の流れをせき止める、不透過型(ふとうかがた)とよばれるかたちをしていました。これに対して、ふだん少しずつ流れてくる土砂は下流に流し、大雨で大きな石や流木(りゅうぼく)がたくさん流れてきたときにはそれを止める、オープンタイプ、または透過型とよばれる砂防堰堤も多くつくられています。オープンタイプの砂防堰堤は、川の水や土砂を自然に近いかたちで流すことができます。また、魚や水にすむ虫、動物などが堰堤の上流と下流を行き来しやすいという特色があります。
オープンタイプの砂防堰堤の特性をいかすためには、石や流木がたまったら、取りのぞいておくことが必要です。
山腹工
土石流は、大雨などで山の斜面がくずれ、その土砂が谷川を流れ下ることによって起こります。草や木が生えていない、地面がむきだしになった山は、そのままではどんどん土砂が流れ出してしまいます。そこで、斜面をコンクリートの枠(わく)や壁(かべ)でおさえて固定したり、斜面に木や草を植えたりして、山がくずれるのを防ぎます。これを山腹工といいます。
木を植える場合は、ただ苗木(なえぎ)を植えるのではなく、まず山の斜面に等高線にそって段々の切れこみを入れます。さらに、土が流れたりくずれたりしないように、斜面に壁(かべ)や柵(さく)を設置します。そして、その土地にあった種類を選んで木を植えていきます。
渓流保全工(けいりゅうほぜんこう)
こうばい(かたむき)が急な川では、大雨が降って水が勢いよく流れると、水の力で川岸や川底がけずられやすくなります。けずられた土砂は下流に運ばれ、こうばいがゆるいところに積もります。すると川底が高くなって、少しの雨でも川の水があふれる原因になります。そうなるのをふせぐために、川のとちゅうに石やコンクリートで階段をつくったり、背の低い砂防堰堤のようなものをいくつもつくることによって、 流れの勢いを弱めたり、川底の土砂が下流に流れないようにしたりします。この工事を床固工(とこがためこう)といいます。
また、水の力で川岸がけずられたり、堤防がこわされたりしないように、川岸や堤防の表面をコンクリートブロックや石でおおって保護します。この工事を護岸工(ごがんこう)といいます。護岸の表面に芝(しば)などの植物を植えることもあります。
渓流保全工とは、これらの床固工や護岸工などを組み合わせて、土砂や水が安全に流れるようにする工事のことで、流路工(りゅうろこう)ともいいます。