地すべり
地すべりは、わりあいゆるいかたむきの斜面(しゃめん)が、広い範囲(はんい)にわたって、すべり落ちていく現象(げんしょう)です。家や田畑や生えている木などもいっしょに、地面が大きなかたまりのまま動きます。地すべりが動く速さは、ふつうは1日に数ミリていどと目に見えないほどですが、一気に数メートルも動くこともあります。また、1つの場所で何十年にもわたって少しずつ続く地すべりもあれば、地震(じしん)などがきっかけで、とつぜん起きる地すべりもあります。
地すべりは動く範囲が広いため、家や田畑、道路や鉄道などが、一度に大きな被害を受けてしまいます。また、地すべりですべり落ちた土砂(どしゃ)が川をせき止めると、川の上流に水がたまり、周りの土地が水につかったり、たまった水が土砂を一気に押し流して、土石流が発生したりすることもあります。
地すべりが起きるしくみ
地すべりが起きるしくみは、場所によって少しずつちがいがありますが、だいたい次のように考えることができます。
地面は、性質のちがう土や石が、いくつもの層(そう)に積み重なってできています(これを地層といいます)。地層の中には、水をよく通す層と、通しにくい層があります。雨が降ったり、雪がとけたりして大量の水が地面にしみこむと、その水は「水を通しにくい地層」の上にたまります。すると、その地層より上の地面が、たまった水の浮力(ふりょく)で持ち上げられます。そこが斜面だと、地面はかたまりのままゆっくりと下へすべっていきます。これが地すべりです。
地すべりは日本中どこでも起きるというわけではなく、次のような場所で、くり返し発生する性質があります。
- ・水を通しにくく、すべりやすい、粘土の地層が広がっている場所
- ・透水性(とうすいせい=水のしみこみやすさ)が大きく異なる地層が重なっている場所
- ・斜面のかたむきと、地層のかたむきが同じ場所
地すべりの種類
粘土の地層が原因で起きる地すべりは、その粘土の種類(できかたのちがい)によって、次の3つに分類することができます。3種類の地すべりは、それぞれ起きる場所がちがいます。
第三紀層(だいさんきそう)地すべり
第三紀というのは、今から約6500万年から約170万年前、日本列島の日本海側のかなりの部分が海の底だった時代のことです。このころ、川が運んだ泥(どろ)や砂、火山灰などが海底に積もってできた地層を第三紀層といいます。この地層はもろくて粘土化しやすい性質があります。
新潟県や山形県、長野県の北部などで起こる地すべりは、たいてい第三紀層地すべりです。地すべりの動きが、わりあいゆっくりだという特ちょうがあります。
破砕帯(はたいさい)地すべり
破砕帯というのは、岩石にひび割れがたくさんできて、くだけやすくなっている地層のことです。大きな断層(地面をつくる岩板に大きなわれ目が入って、岩がずれてしまったところ)があるところでは、断層の動きによってまわりの岩が大きな力を受け、くだけたり、変質して粘土になったりしています。そういう場所で起きるのが破砕帯地すべりです。わりあい動きが速いのが特ちょうです。
温泉地すべり
地層が、温泉の熱やガスの影響で変質し、粘土状になったところで起こります。火山や温泉のあるところで見られます。
地すべりと棚田(たなだ)の関係
地すべりの中でも第三紀層地すべりがくり返し起こっている場所は、なだらかな斜面になっているところが多く、こうした土地には、むかしから棚田(斜面に階段状につくった水田)がよくつくられてきました。「地すべりのしくみ」のところで説明したように、地すべりが多いところは地下水が多く、わき水の池なども多いので、農業用水にはこまらないし、何度も地すべりが起こっているため、地面が深いところまでよく耕したのと同じ状態になっています。また、土の粘土が農作物を育てるのに良い性質を持っているため、田んぼをつくるのに適しているのです。
新潟県でおいしいお米が取れる場所として有名な魚沼地方は、第三紀層地すべりが起きやすい場所でもあります。このように人々は、地すべりの起こりやすい土地も、くふうして利用してきたのです。