自然と共生するくふう
砂防工事をおこなう現場は、土砂災害の発生する危険(きけん)な場所ですが、同時にそこは、貴重な生物がすむ場所だったり、雄大な景色が人気の観光地だったりすることもあります。また、家が立ちならぶすぐ裏(うら)のがけや、住宅地を流れる小川で工事をすることもあります。
このため砂防施設をつくるときは、それによって周辺の自然環境が大きく変わってしまったり、施設が景観(けいかん)のじゃまになったりしないよう、気をつけています。
一方、砂防工事は、噴火(ふんか)を続ける火山のふもとや、土石流がいつ起こるかわからない渓流(けいりゅう=谷川)など、危険ととなりあわせの現場でおこなうこともあります。そういう場所でも安全に工事ができるよう、人が現場に行かなくても工事ができる方法など、新しい技術も開発されています。
魚道(ぎょどう)
川のとちゅうに砂防堰堤(さぼうえんてい)や渓流保全工(けいりゅうほぜんこう)などの砂防施設があると、魚が産卵のために川をさかのぼることができなくなります。そこで近年は、砂防施設に魚道と呼ばれる魚のための通り道を設けるようになりました。
砂防施設の形や川の地形、すんでいる魚の種類などに合わせて、いろいろな形の魚道がつくられています。
砂防堰堤につけた階段式魚道(手前右)と
スロープ式魚道(手前左)縦型壁面魚道(たてがたへきめんぎょどう)
砂防堰堤の高さがある場合につくられます。渓流保全工の中のスロープ式魚道
自然の石を使っています。
親水(しんすい)機能を持った砂防施設
砂防堰堤のまわりを公園にしたり、渓流保全工を整備するときに、護岸(ごがん)にそって遊歩道をつけたり、水遊びができる浅い池やせせらぎ(小さな流れ)をつくったりすることがあります。川をながめたり水遊びができたりする公園のことを親水公園といいますが、土砂災害をふせぐだけでなく、親水公園のやくわりもあわせ持った砂防施設が、近年は多くなっています。
砂防施設を活用して、人々が自然とふれあい、楽しめる場所をつくっていくのも、これからの砂防の仕事として大切なことです。
親水公園として整備された流路工
川に下りる階段や、安全に水遊びができる場所などがつくられています。
まわりの景色との調和を考えた砂防施設
国立公園の中や、景観が美しい観光地につくられる砂防施設は、その風景にとけこむように、デザインをくふうしています。
国の特別名勝に指定された広島県宮島の砂防工事では、砂防施設があることがわからないように、コンクリートの表面には自然の石を張り付けました。
新潟県十日町市の「七ツ釜」という滝は天然記念物に指定されていますが、土砂災害でくずれたため、擬岩(ぎがん=岩ににせた人工物)で砂防堰堤として復元しました。
岐阜県多治見市は焼き物の産地です。砂防堰堤もそれにふさわしく、正面にあけたくぼみに焼き物をかざっています。
コンクリートの表面に木材を張り付けた砂防堰堤。木材は間伐材(かんばつざい)を有効活用しています。
無人化施工
砂防工事のなかでも、土砂災害の直後の復旧工事などは、いつまた土砂がくずれたり土石流がおそってくるかわからないような現場で、少しでも早く工事を進めなければなりません。活動が続く火山のふもとでおこなう工事も、噴火(ふんか)の危険がある中で作業をしなければなりません。
こういう危険な現場でも工事ができるように開発されたのが、無人化施工という技術です。無人化施工は、現場をはなれた安全な場所から、カメラの映像などを見ながら、リモコンの遠隔操作(えんかくそうさ)でダンプカーやショベルカーを動かして、工事をおこないます。
長崎県の雲仙普賢岳のふもとでおこなわれている無人化施工
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機械の遠隔操作
現場の土砂を有効活用した砂防施設
砂防工事の現場では、山をけずったり川をほったりすることから、たくさんの廃土(はいど=いらなくなった土砂)が出ます。この土砂は、どこかに運んで処理(しょり)しなければなりません。そこで、砂防堰堤の中にこの土砂を詰(つ)めたり、土台にしたり、土砂とコンクリートを混ぜて使ったりする工法が開発されました。こうすれば、現場の土砂がむだにならないし、コンクリートを減らせるぶん費用も安くなります。廃土を処理するためのお金も場所も節約できます。
工事現場で土砂とコンクリートを混ぜているところ
セル式砂防堰堤は、つつ状の堰堤の中に土砂が詰まっています。
グリーンベルト
グリーンベルトは、市街地のすぐ近くの丘(おか)や山のふもとにつくられた森林です。もとからある森林をグリーンベルトとして整備することもあります。
グリーンベルトは、森林の力で土砂災害を少なくするとともに、豊かな都市環境や、美しい景観をつくりだす効果があります。